飢えは時に人を獣にするが、味は生きる原動力になる。
友人で画家の佐藤健吾エリオ氏からおじいさんの話を聞き、そう思った。
佐藤氏の祖父は戦後、シベリアに抑留された。祖父の家はみそ、しょうゆの醸造を営んでいた。抑留された時、苦労して手に入れた大豆でみそを作り、仲間にみそ汁を出した。一口すすったとき、皆の心に生きて日本に帰ろうとの思いが込み上げた。祖父の班だけ、帰還率が断トツに高かったそうである。
祖父はその事を誰にもしゃべらず、佐藤氏が小学校二年生の時、交通事故で急逝した。佐藤氏は成人後、祖父の抑留仲間から「あの時、一生懸命みそ汁をつくってくれて、みそ汁の懐かしい味に、私たちは生きて日本に帰るんだという気持ちになりました。あなたのおじいさんのおかげで希望を捨てず、こうして日本へ帰ってこられたのです」と、感謝の気持ちを聞いた。